情報誌

12 月号/ 2012

インタビュー「川上茉梨絵さん」

12.11.19

歌手(ソプラノ)

川上茉梨絵

Marie KAWAKAMI 

 

 

Profile

 東京藝術大学音楽学部声楽科を首席にて卒業。大賀典雄賞、松田トシ賞、アカンサス賞、同声会賞を受賞。皇居桃華楽堂にて音楽大学卒業生による演奏会に出演。今年の東京藝術大学オペラ定期公演「ドン・ジョヴァンニ」ではツェルリーナを演じる。現在、東京藝術大学大学院修士オペラ科2年に在学中。日比啓子氏に師事。

 

 

コンサート情報

横浜みなとみらいホール 小ホール 12月15日(土) 15:00開演(14:30開場)

 E.フンパーディンク作曲/歌劇「ヘンゼルとグレーテル」(全3幕・日本語訳詞上演) http://www.yaf.or.jp/mmh/index.php

 

 

オペラの魅力を気軽に味わって

 

■オペラ歌手を目指すことになったのは?

 母がオペラの歌手でした。私が物心ついたころにはすでに舞台で歌うことはあまりしていなかったので、母の影響というわけではありませんが、歌やオペラは身近ではありました。小さい頃から歌うことが大好きでした。「上手だね」と褒めてもらえるのが嬉しくて。実は、アイドル歌手に憧れていたんです。目立ちたがり屋なところがあって、テレビに出て歌いたいな、なんて夢見ていました。安室奈美恵ちゃんが大好きだったんです。母も反対もせずに、それならちゃんとした声の出し方を勉強したほうがいいからと発声のレッスンをしてくれました。

 

■アイドル歌手から声楽家への将来像の転換点はいつごろでしたか?

 中学三年生の頃、地元の茨城県に歌劇場の来日公演があって、母と一緒に観に行きました。初めて観たオペラは『カルメン』。オーケストラの演奏を突き抜けて生の声が届くオペラ歌手はすごいとびっくりしました。舞台や衣裳にも驚いて、歌手がキラキラと輝いて見えて、歌うことでこういうことが実現できるのか、と感激しました。

 

■高校時代はどのように歌の勉強を?

 水戸の音楽科のある高校に入りました。小学校から茨城県の大洗で育ちました。隣町の水戸までは30分ほどで通えました。「歌いたい」という思いはずっと変わらなかったので、高校生活も声楽科で歌うことが中心でした。声を褒めてもらえると、もっともっと言ってもらいたいという気持ちがあったので、それを突き詰めていったら声楽家という道の選択になってしまったという感じです。

 

故郷の温かさを感じています

 

■大洗はこれまでの大半を過ごして来た場所ですよね?

 大学(東京藝術大学)時代も、スーパーひたちで片道2時間かけて大洗から通いました。大学院になって初めて東京で一人暮らしを始めました。東京での生活は、海が見られないというのが寂しく感じています。毎日海を見て育ちましたから。といっても大洗の海は太平洋の荒波が押し寄せる荒い海です。そんな土地柄ですから、方言も訛りが強いですし、男性も女性も、特に女性が強くて元気な町です。

 

■大洗でコンサートを開いたそうですね?

 やっぱり故郷っていいなって思うようになりました。離れて生活するようになって、元気な人達に会いたくなります。私を大歓迎してくれて、皆さん すごく元気よく応援してくださいます。ありがたいです。

 

■ずっと歌うことが好きで来たのですか?    

大学に入ってからは上手い人達もたくさんいらして、楽しいだけではなく、苦しい気持ちの方が勝ってしまった時期ももちろんあります。今も、自分の思うようになかなか上手く行かなくて、技術的にももっと身につけなくてはならないと思って、辛いと思うこともあるようにはなりました。けれども、舞台に立って拍手を浴びると、もう辛かったことなんて全部吹き飛んで忘れられるんです。その快感で進んできているように思います。

 

■歌うことは快感なんですね?

思うように歌えたときは。練習は辛くても、本番は楽しんで臨むようにしています。そのためには、積み重ねた練習で、不安を自信に変えておかなくてはなりません。この間の初めてのオペラ・デビューも本番はとても楽しかったです。練習の間には泣いたこともあったのですが。

 

やっぱりオペラが大好き

 

■オペラはやはり楽しいですか?

 楽しいです。でももちろん難しいことだらけですね。オペラに初めて取り組んで、歌だけじゃだめなんだと痛感しました。キャラクターを作りあげて役作りをして舞台に乗るということの難しさを実感しました。今度の『ヘンゼルとグレーテル』のグレーテル役も難しい役どころです。5、6歳くらいの少女の感情をどれだけ表現できるか、発声と演技の両方に格闘中です。グレーテルがごちそうを見つけた時のリアクションや、森の中で怯えている様子を、子どもらしさを出しながら薄っぺらい声や表現にならないようにと、稽古を繰り返すなかでその表現方法を見つけていきたいです。客席の子どもたちに共感してもらいたいですからね。

 

■声という楽器のために何か心がけていることはありますか?

  156センチしかない身体なので、西洋音楽の声楽をするには不利なところもあります。かといって無理に筋肉をつけたりするのではなく、きちんと食事を取って好きなものを食べて、ストレスをためない生活が一番大事ではないかと思っています。自転車が好きなので、大学院への通学以外にも休みの日には近所を回ってみたりします。母からも特別なアドバイスはないですね。おおらかで自由奔放で明るく生きている母を見ると、それが一番大事なことだなと感じます。

 

■今度の横浜みなとみらいホールでの『ヘンゼルとグレーテル』の見どころを教えてください。

 横浜みなとみらいホールの小ホールという親密な空間で、原語のドイツ語ではなく日本語での上演ですので、小さなお子さんでも楽しんでいただけると思います。どなたも知っているグリム童話の物語ですが、オペラならではのストーリー展開になっていますし、ワーグナーの弟子だったフンパーディンクの音楽は深みも複雑さもあるので、聞きがいもあります。気軽に楽しんでいただき、私の初オペラ体験のときのようなときめきを感じていただけたらと思います。