情報誌

7 月号/ 2011

インタビュー「指揮者 沼尻竜典さん」

11.07.03

n_numajiri250.jpg

指揮者

沼尻竜典



NUMAJIRI RYUSUKE

プロフィール

1990年ブザンソン国際指揮者コンクール優勝後、世界各地で活躍。

現在、びわ湖ホール芸術監督。群馬交響楽団、日本センチュリー交響楽団などにもポストを持つ。昨年に続き、今年も横浜みなとみらいホールでオペラを指揮する。桐朋学園大学教授。


(イベント情報)

レオンカヴァッロ 歌劇「道化師」

~池辺晋一郎プロデュース・オペラの音符たち~



日時:2011年7月1日(金) 開場18:20 開演19:00

出演者:

 沼尻竜典 /指揮

 トウキョウ・モーツァルト・プレーヤーズ /管弦楽

 水口 聡 /カニオ(Ten) 

 北原瑠美 /ネッダ(Sop) 

 牧野正人 /トニオ(Bar)

 渡邉公威 /ペッペ(Ten)

 大山大輔 /シルヴィオ(Bar)

 栗友会合唱団 小田原少年少女合唱隊

 池辺晋一郎 /トーク

プログラム:

第1部 オペラ序曲集

・ グリンカ / 歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲


・ ビゼー / 歌劇「カルメン」より 第3幕への前奏曲


・ウェーバー / 歌劇「魔弾の射手」序曲


・ヴェルディ / 歌劇「運命の力」序曲

・池辺晋一郎 / 「黄金の日日」

第2部 レオンカヴァッロ作曲 / 歌劇「道化師」

(全2幕・演奏会形式・イタリア語上演・字幕付)

◆会場:横浜みなとみらいホール 大ホール

◆お問い合わせ:

横浜みなとみらいホール・チケットセンター 045-682-2000

歌劇「道化師」フライヤー.jpg


レオンカヴァッロ 歌劇「道化師」~池辺晋一郎プロデュース・オペラの音符たち~

mmh.jpg


横浜みなとみらいホール 大ホール







放送委員で培った指揮者の素養


指揮者という仕事に不可欠なことは何ですか?
指揮者というのは変わった職業だと思います。本番のコンサートの時はひとり客席に背を向けて、自分で楽器を演奏して音を出すことは一切できない。ステージに立っている指揮者は不思議な存在かもしれません。でも実は壇上で指揮棒を振ることは、指揮者の仕事のうちのほんの一部にしか過ぎないんです。出演者のキャスティング、楽曲のプログラミング、規模の大きなガラ・コンサートなどでは、演出の基本プランを練ること、こうしたすべてを任されることもあります。オーガナイズするのが好きでないと指揮者は務まらないかもしれませんね。

では、もとからオーガナイズ好きでいらしたのですか?
その傾向はありましたね。小中学校の時は放送委員でした。給食の時間の校内放送で好きな曲をかけたり、「今日は○○先生をゲストにお迎えしました」と質問コーナーを設けたり。アナウンサーは別の子に任せて、自分は企画構成を考えるのが好きでした。番組が面白すぎると先生に叱られた(笑)。高校・大学時代の文化祭では常に実行委員でした。

「オタク」だったんです


オペラはいつごろから観ていました?
本格的なオペラを最初に観たのは、『ラ・ボエーム』(プッチーニ作曲)かな。高校生のときに当時人気絶頂のカルロス・クライバーが指揮者で、ミラノ・スカラ座が来日したのです。演出はゼッフィレッリでした。当時は一流オペラハウスの引っ越し公演は社会的事件でしたから、それに行くのかどうかということは、常にファンの話題の中心でした。チケットの発売日の前夜から毛布を持って「銀座一丁目プレイガイド」に並びに行って、朝おまわりさんに怒られました。「君たち学校は?」って。でも学校の先生から勧められたんですよ。一番安い席が8,000円だったかな。その後もカラヤン、ホロヴィッツ、アルゲリッチなど、大物アーティストが来る度に並びました。友達といっしょに夜通し並ぶのは楽しかったです。発売日に電話がつながるかどうか運次第の今と違って、根性があれば買えた時代は良かったですね。銀座ではバーやクラブに商品を納める氷屋やおしぼり屋のおじさん達にも、「商売の邪魔なんだよ」とよく怒られました。
つまり、指揮者になる以前は、ご自身がクラシック・オタクだったんですか?
クラシック・オタクであり、同時にクラシック音楽を学ぶ学生でした。プロになった今でも、コンサートの出没回数は最多の方じゃないかな。僕のことをコンサート会場で毎週見かけて、評論家だと思い込んでいる人もいるかもしれません。どうしても聴きたいコンサートのために、「ヨーロッパ弾丸ツアー」にも行ってしまうくらいです。
ファンの目線はコンサートづくりに反映されますか?
自分がお客さんだったら次は何を聞きたいか、こういう組み合わせはどうだろうかと、プログラミングにファン目線的なものが入ってきますね。演出や構成を考えるときも、ここで自分が出て行かずに、ゲストの方にトークしてもらったほうが盛り上がるだろうとか、客観的に全体を見る癖がついているのも、自分がお客として会場にいることが多いからだと思います。

オペラへの情熱の意味


びわ湖ホールの音楽監督をなさるなど、オペラに積極的に取り組んでいらっしゃいますが、その情熱はどこから?
日本のクラシック音楽の普及の歴史を見た場合、オーケストラなどのコンサートがまず広まって、オペラは数十年遅れての登場でした。だから日本でクラシックというと、コンサートを思い浮かべがちです。けれどクラシックのふるさとヨーロッパでは、いつでもオーケストラ音楽とオペラが同時にある。たとえばウィーン・フィルを世界最高のオーケストラと考える人は多いでしょうが、彼らの音楽性は、歌劇場でオペラ演奏を通して身につけたものだと思うんです。オペラで求められる、喜怒哀楽に即した表現を磨いてきたからこその音楽性なんです。

同じ作曲家の管弦楽曲とオペラを両方演奏すると、作曲家の「語り口」の理解が深まっていく。例えばリヒャルト・シュトラウスの交響詩を演奏する場合に、彼のオペラ作品演奏を通じて得た表現力がどうしても必要だと感じる時があります。日本のオーケストラも、もっとオペラを演奏する機会が増えればいいですね。演奏会形式(※)でも構わないから。

演奏会形式とは

オペラの上演方法のうち、歌手達は衣装を付けて簡単な演出で歌い、指揮者と管弦楽が舞台上で演奏する形式での上演のこと。大掛かりな舞台装置などはない分、安い料金で「音楽」に集中して楽しめるのが魅力。。


聴く側にとってはどうですか?
聴く側にとっても、例えばモーツァルトの交響曲を聴いて、「ここはオペラ『ドン・ジョヴァンニ』のあの場面と似た音楽だから、きっと同じ気分を表しているんだろう」と想像しながら聴くのと、「この交響曲の第一楽章はソナタ形式で何調で何拍子である」とかいう、ありきたりの解説を読んだだけで聴くのとでは、まったく世界の広がりが違ってくるでしょう。ここはいたずらっぽい気分なんだろうとか、楽しそうに歌っているけど実は悲しい気持ちなんだろうとか、オペラを知ることで想像力が広がって行きます。

オペラを楽しむ方法


オペラが初めてでも楽しめますか?
レオンカヴァッロ作曲のオペラ『道化師』(※)を、7月1日金曜日、横浜みなとみらいホールでの「池辺晋一郎プロデュース・オペラの音符たち」の第2部において演奏します。「オペラは敷居が高くて観に行ったことがない」という方には、ぜひ今回来ていただきたいと思います。まずは人間の声の凄さに驚かれるでしょう。「声」は人類が最初に得た楽器と言えるでしょうが、生身の人間が二千人収容のホールを、マイクもスピーカーもなしで声で満たす凄さ。これは一度ライヴで体験していただかなくてはなりません。

オペラ『道化師』とは

一人の女性を巡る3人の男性の愛と悲劇を描く。アリア「衣装をつけろ」や、劇中劇が有名。


「演奏会形式」の楽しみ方は?
演奏会形式でのオペラの上演では、オーケストラの演奏を目で見て楽しむこともできます。舞台上演では彼らはピットの中にいて、見えませんからね。また、演奏会形式で取り上げる作品は、基本的に音楽的に優れているものばかりですから、その素晴らしい音楽に集中できるメリットもあります。オーケストラが刺身のツマだなんて思ったら大間違い。

『道化師』の味わいどころを教えてください。
70分ほどの短いオペラですが、その中身はぎっしりと凝縮されていて、ソロ歌手の歌、合唱、オーケストラすべてに、極限までと言ってよいほどの音楽性と技量が要求されます。初演されたのは120年ほど前ですが、物語には現代にも通じる愛、悲しみ、嫉妬、恨みなど、人間のすべての感情が詰まっていて、これが初めてのオペラ体験という方にも楽しんでいただけること間違いなしです。




5月6日 横浜みなとみらいホール レセプションルームにて