情報誌

5 月号/ 2012

インタビュー「パーヴォ・ヤルヴィさん」

12.05.07

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指揮者

パーヴォ・ヤルヴィ氏



Paavo Järvi

プロフィール

エストニアのタリン生まれ。タリン音楽院で打楽器と指揮を学んだ後、1980年に渡米。カーティス音楽院で勉強を続け、ロサンゼルス・フィルハーモニックの夏期講習でレナード・バーンスタインに師事。満を持して2010年よりパリ管弦楽団の第7代音楽監督に就任。1967年以来この地位に就いてきた、ミュンシュ、カラヤン、ショルティ、バレンボイムら超一流の指揮者リストに名を連ねることとなった。

飛びぬけた実力とビジョンを持ち、パリ管のほかにもシンシナティ響、ドイツ・カンマーフィル、フランクフルト放送響のポストを務め、仏・独・米にまたがる活躍をしている。こうした常任のポストに加えて客演指揮者としても引く手あまたで、シカゴ響、ロサンジェルス・フィル、ニューヨーク・フィル、クリーヴランド管、シュターツカペレ・ドレスデン、NHK響、スカラ・フィルなどに定期的に招かれている。最近では、ロイヤル・コンセルトヘボウ管、ウィーン・フィル、フィルハーモニア管、ミュンヘン・フィル、チューリッヒ・トーンハレ管も指揮。音楽業界の台風の目としてめざましい活動を続けている。

横浜みなとみらいホールでは、2006年のドイツ・カンマーフィルとのベートーヴェン交響曲全曲演奏会以来6年連続での登場となる。

オフィシャル・サイト:www.paavojarvi.com.









(イベント情報)

横浜・フランクフルト パートナー都市提携記念公演

パーヴォ・ヤルヴィ指揮 フランクフルト放送交響楽団 Vn:ヒラリー・ハーン


指揮界のニューリーダー=パーヴォ・ヤルヴィとヴァイオリンの新女王=ヒラリー・ハーン、夢の共演!


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■日時:平成24年6月2日(土)16時開演

■会場:横浜みなとみらいホール 大ホール

■入場料:S席18,000円(残席僅少)A~D席予定枚数終了

■プログラム:メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64

ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調

◆お問い合わせ:

横浜みなとみらいホール

045-682-2000




日本の聴衆が大好きです

世界中を回る※1マエストロにお伺いします。聴衆の反応は日本とその他の国では違いますか?
もちろん、ところ変われば反応も違います。私は日本の聴衆がとても好きです。とにかく集中して、注意深く熱心に聴いてくれる。非常に正直で、尊敬の念をもって聴いてくれるのです。たびたび聴衆の皆さんが感動する瞬間を感じ取ることができます。しかし、演奏直後に会場中一同立ち上がって拍手喝采、ところがその直後、あっという間に会場から姿を消すようなタイプの聴衆もいますね。そういったものとは違い、日本では私と聴衆がどう繋がっていくかを感じることができるのです。本当に素晴らしいことです。
音楽監督としてオーケストラに関わる時、レパートリーやプログラミングはどうお考えですか?
 音楽監督の仕事として、バランスをとってプログラミングをする必要があります。※2パリ管弦楽団でフランス音楽やロシア音楽ばかりを演奏するわけにはいきません。モーツァルト、ハイドン、ベートーヴェン、ブラームスにも取り組む必要があります。特に彼らのようなメジャー級のオーケストラは、近現代ものも含めてバランスよく様々なレパートリーに取り組む必要があるのです。

フランクフルト放送響は”ブルックナー・オーケストラ”

マエストロは現在3つのオーケストラにポジションを持っていらっしゃいますね。以前のシンシナティ交響楽団を含めると、アメリカ、ドイツ、フランスのオーケストラと密に関係があったことになりますが、それぞれの音楽作りにおいて、音の特徴や解釈の違いはあるでしょうか?
 それぞれ大きく違います。その中でも特に※3ドイツ•カンマーフィルハーモニー管弦楽団は違います。小編成のオーケストラとしての非常に強い個性を持っています。※4古楽器奏法 HIPP (Historical Informed Performance Practice)というもので、バロック音楽や古典派音楽を演奏するにあたり、非常に特別な音作りの手段を持っているのです。頻繁に室内楽を演奏しますし、またオーケストラとしても指揮者なしで演奏することもあります。お互いをよく聴きあう、室内楽合奏団としての伝統があるのです。非常に個性ある考え方を持っているのです。

 パリ管弦楽団は、フランス音楽に求められる非常に美しい音に反応する感性があります。と同時に、私自身も驚いたことですが、彼らのドイツ音楽もすばらしい。彼らの正統なドイツ音楽の演奏には非常に感心しました。

 ※5フランクフルト放送交響楽団は、力強く、しかし温かみのある音を持っています。特に金管楽器は極めて優れています。ブルックナーを演奏するには一番理想的なオーケストラです。こういったように、それぞれの個性と魅力があるわけです。
フランクフルト放送響とは今回2回目の来日となりますね。彼らの特質と魅力はどこにあるでしょうか?
 特に木管パートには若手で優秀な奏者がそろっています。常にバランスの取れたアンサンブルを聞かせます。放送オーケストラとしての立場があるので、常にマイクに囲まれていますから、いつも高い完成度を要求されます。と同時にとてもエキサイティングにもなれます。このオーケストラが”ブルックナー・オーケストラ”といわれるほど、ブルックナーには極めて適しているオーケストラだということをご存知ですか?※6エリアフ・インバルの時代にブルックナー全曲を演奏していますしね。
長年一緒に活動していくと、オーケストラとの関係は深まっていくのでしょうか?
 1つのオーケストラと時間をかけて仕事をすると、ある意味で家族のような関係になります。何を期待しているかがお互いに判るようになるのです。音楽作りにおいて柔軟になり、良質な前向きな音楽が生まれます。そのような関係が築けると、新しいことを実験したいという気持ちが生まれます。演奏中にも新しい閃きがあるのです。お互いによく知っている仲なので、瞬間に決断をすることもできます。これは信頼関係があってこそ受け入れられ、反応できる柔軟性です。もしオーケストラが私を信頼していなければ、リハーサルで確認したこと以外は絶対に行いません。時に、彼らはどこに導かれるかわからないことがあるかもしれません。でも、私が行きたい方向がある、ということは判っていて、信じていてくれている、そんな信頼関係なのです。いずれにしても、信頼関係を勝ち取るには時間をかける必要があります。
※7ブルックナー「交響曲第8番」についてお考えを聞かせてください。
 言うまでもなく偉大なる名作です。意味深く、複雑で、洗練された宇宙そのもの、作品そのものがひとつの世界を形成しています。これ以上の名曲はない、といってもいいほどでしょう。フランクフルト放送響はブルックナーを知り尽くしていますから、巨大でドイツ精神に満ちたオーケストラとして演奏をするのです。
※8ヒラリー・ハーンさんとの共演も数多いですが、彼女の魅力を教えてください。
 ヒラリー(・ハーン)とはこれまでにも何回も共演しています。シンシナティ響、ドイツ・カンマーフィル、そしてフランクフルト放送響でも共演しました。非常に強い個性をもっており、音楽に主張があります。オーケストラ同様、相手を良く知れば知るほどそこには自由が生まれ、互いに影響を与え合うことができるようになります。ヒラリーとの共演ではお互いに舞台上でとても自由になれます。

日本の素晴らしい聴衆のみなさまへ

日本の聴衆にメッセージをお願いします。
 日本に行くことがいつも楽しみでなりません。なぜなら日本は、私の大好きな聴衆のために演奏ができる場所だからです。昨年はパリ管といっしょに初めて来日しましたが、聴衆が私の音楽を理解し、喜んでくれることを感じ取り、聴衆との繋がりを強く実感しました。私は自分自身のためではなく、誰かのために音楽を演奏します。ですから、音楽を理解し、聴き、喜んでいただけることは、私たち音楽家にとってこれほど最高に幸せなことなのです。なぜならば、我々音楽家はそのために演奏しているのですから。もちろん日本は食べ物も文化も素晴らしい。けれども聴衆の皆さんの真摯な姿勢こそ、我々アーティストにとって最も重要なことであり、”日本”の素晴らしさそのものなのです。
横浜はお好きですか?
もちろん!私の母国エストニアは人口130万人の小さな国ですが、水に囲まれた美しいところです。この海に抱かれた横浜に来るたびに、まるで故郷に帰ったようでとても落ち着くのです。そして、自由にくつろいで振る舞うことができます。

 また、横浜みなとみらいホールは、2006年のドイツ・カンマーフィルとの※9ベートーヴェン・チクルスを実現させ成功させてくれた特別なホールです。来るたびにまるで自分がホールスタッフの一員であるような気さえしています。6月にまた横浜の皆様とお会いできるのを本当に楽しみにしています。


ひとことクラシック用語解説:

※1 マエストロ=「巨匠」の意味だが、指揮者に対して呼びかけるときにしばしば使われる。



※2 パリ管弦楽団=略して「パリ管」。1967年にパリで設立。2010年よりパーヴォ・ヤルヴィが首席指揮者を務めている。



※3 ドイツ•カンマーフィルハーモニー管弦楽団=略して「ドイツ・カンマーフィル」。ドイツ、ブレーメンを本拠地とする室内オーケストラ。2004年からパーヴォ・ヤルヴィが音楽監督を務めている。



※4 古楽器奏法=作曲家(ここでは例えばベートーヴェン)が作曲をした当時の様式の楽器を用いて演奏する方法のこと。



※5 フランクフルト放送交響楽団=ドイツ、フランクフルトのヘッセン放送協会に所属するオーケストラ。2006年よりパーヴォ・ヤルヴィが首席指揮者を務めている。



※6 エリアフ・インバル=今世紀を代表する指揮者の一人。イスラエル出身。マーラーやブルックナーを得意とする。1974年にフランクフルト放送交響楽団の音楽監督となり黄金時代を築きあげた。



※7 ブルックナー「交響曲第8番」=ブルックナー(オーストリア1824-1896)の作曲した10曲目の交響曲で、演奏時間80分を越すこともある長大な曲で、後期ロマン派音楽の代表作の一つに挙げられる。



※8 ヒラリー・ハーン=1979年生まれのアメリカ人ヴァイオリニスト。11歳でデビュー。世界中の著名オーケストラとの共演も数多い。「ヒラリー」と呼ばれている。



※9 ベートーヴェン・チクルス=ここでは2006年に横浜みなとみらいホールで行なわれた「ベートーヴェン全曲演奏会」を指す。ベートーヴェンの9曲の交響曲とヴァイオリン協奏曲が全曲連続演奏された。ちなみに「チクルス」とはある作曲家の作品を取り上げて連続で演奏すること。




2012年2月3日 ブレーメンにて